館長あいさつ
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館長あいさつ

館長あいさつ ―開館55周年を迎えて

 山種美術館は、全国初の日本画専門の美術館として1966(昭和41)年に開館し、2021(令和3)年7月7日、創立55周年を迎えることができました。

 創立者である私の祖父・山崎種二(山種証券[現SMBC日興証券]創業者)は、15歳の時、無一文で群馬の田舎から上京し、親戚の米問屋で丁稚奉公しました。その奉公先のご主人が床の間の掛け軸を季節ごとに取り替えるのを手伝いながら、日本画の素晴らしさに目覚め、「いつか自分も独立して店を持ったら床の間にこのような掛け軸を掛けたいものだ」と思っていたそうです。

 大正末期に、種二は念願の店兼自宅を持ち、日本美術の収集を始めたのでした。それ以来、90年近くにわたる種二、そして私の父である富治と親子2代で築き上げた日本美術のコレクションは、浮世絵、江戸絵画から近代、現代の日本画まで幅広いものとなっております。その中には、種二・富治親子と親しい交友関係にあった画家たちの作品も多く、その親しさゆえに生まれたコレクションともいえるでしょう。

 この90年間には、さまざまな出来事が起こりました。世界大恐慌、第二次世界大戦という最も辛い時代、その後の戦後の高度成長期、バブル期、バブルの崩壊、今世紀のリーマンショック、東日本大震災、そして現在も続くコロナ禍などです。日本画家たちが食料にさえ困る戦時中でも日本画を制作し続けたこと、種二が彼らに食料を届けたりしながら作品を購入して、彼らを支えたことを我が祖父ながら心より尊敬しております。

 また、種二と富治の発案により当館が1971(昭和46)年から1997(平成9)年まで続けた「山種美術館賞」は、若手画家の登竜門として多くの画家を世に送り出しました。応募の形式を多少変更した公募展「Seed山種美術館賞」を開館50周年にあたる2016(平成28)年より再開し、新しい時代に合った画家たちを応援しております。この取り組みは今後も継続してまいります。

 昨年から続く新型コロナウィルスのパンデミックでは、前例のないほどの長期休館を余儀なくされました。まだ、先行きの見えない危機の最中ではありますが、この危機は、50年以上にわたって展示という形でのみ公開してきたコレクションを、より多くの国内外の人々に伝え、そして未来に繋いでいくためにはどうすべきかという当館にとって目下の課題を明らかにしてくれる機会ともなりました。次の5年、そして10年の間は、皆様のお力添えをいただきながら、これらの課題に真摯に取り組み、時代を超えて愛される美術館としての変革が必要だと強く感じております。

 当館にとっても厳しい状況が続いている中で創立55周年を迎えることができましたのは、皆様のあたたかいご支援の賜物と改めまして心より御礼申し上げます。今後もなお一層皆様に愛される美術館を目指し、展覧会、ならびに教育普及活動の企画・実施、作品の調査・研究、修復に加えて、時代に合わせた新たな取り組みも充実させてまいりたいと存じます。創立者の「美術を通じての社会貢献」という理念を受け継ぎ、当館では幅広い層の方に日本画を楽しんでいただけるよう教育普及活動や地域との連携にも力を入れております。具体的には、地域の小学校の生徒を休館日に招待して、小さな頃から日本画に親しむ機会を設けております。また、さまざまな年齢層の方を対象とした講演会、特別鑑賞会、コンサートなどのイベント、本年からはオンライン講演会なども行っております。20210707_HP用180704FG_0014.jpg近隣に各国大使館が位置する土地柄から、日本にお住まいの外国人の方々にもご来館いただいております。

 デジタル化が進み、それによって生まれる新たな楽しみ方、そして時を超えた力強さを持つリアルな作品の双方を通じて、日本文化に触れることのできる時代が到来しております。グローバリゼーションの中で、日本の文化を世界のより多くの方に知っていただくことも当館の使命の一つと考えております。これからも日本の文化や歴史、日本の風景、草花などの自然を、日本画を通じて再発見する機会を提供し続けるべく、努力してまいります。

 今後もより多彩な展覧会や地道な研究、新たな取り組みを通じて、学術文化の振興と社会貢献に努めていきたいと存じます。今後とも皆様からのご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

2021年7月7日

山種美術館 館長 山崎妙子

プロフィール
慶應義塾大学卒業後、東京藝術大学大学院美術研究科後期博士課程修了。学術博士。
2007年より財団法人山種美術財団理事長兼山種美術館館長。
2012年より公益財団法人山種美術財団理事長兼山種美術館館長。